「雁皮紙」との出合いは1983年。持ち帰ったカラーエッチングの作品に、日本の気候が左右するのか、コラージュしたトレーシングペーパーの部分に空気が入ったような皺ができた。それに代わる物として、探し求めて出会った物が「雁皮紙」である。この紙は和紙の風味を持たせる作品には向いていないやっかいな紙であったが、不思議な魅力や強さを感じた。表に強く出てこない、それでいてこの雁皮紙でないと出てこない表情、そんなところに私のこれから制作しようとしている感覚が一致するかもしれないと感じたのだろう。
しかし雁皮紙による抽象表現の作品を発表するには、その時から10年間の模索を必要とした。「線」は雁皮紙を細く切り、コラージュし、その上から極薄雁皮を貼る。極薄雁皮、中厚口、厚口、と3~4種類の重さの雁皮を使って1992年頃からようやく作品らしき物が出き、その年に制作した「”Triangle" on 7 July1992」が、人に見せた(発表した)初めての作品となった。1985年の”Quiet”や”Lines"は試作期の作品である。
いろんな作家に影響され、暗中模索し、一応の自己表現をして大学を出る。しかし感じさせられた「共通する何か」が解らないまま『学生時代』を通過するのである。